2010-01-01から1年間の記事一覧

マスクの中にぼろぼろと落ちていく涙は思いの外熱い。 毎日仕事を終えてから急いで地下鉄を乗継ぎ四十分かけて見舞いに行き、病棟の面会時間が終わるまでの二十分間を一緒に過ごし、バスを乗り継いで一時間かけて家に帰る。二十分は思いの外長い。 不安なん…

浦和の道重の家に遊びに行き長居しとうとう学校から帰ってきた真実と対面する。真実は身長148センチほどで黒髪のセミロング、眉が濃くあまり可愛くはない。私が夢のなかで何度かすれ違ったことのある子だった。私は道重の猫を撫でながら道重の猫と真実と道重…

寒い冬なのに、山に一晩肝試しをしに行くと言う。私は付き添うだけで、車で待っているからね。 車のまばらな山頂近くの駐車場で、会いたくない人の車を見つけ、がっかりするも安全かなと思い直す。(誰のことでなんのことだか覚えていない) 寒さに負けて、…

ブレスト

死のスケジュールファーストシーズンを抜けて勝ち取った半休で取った久しぶりのまともな睡眠で、久しぶりのまともな、本当に久しぶりのまともな明晰夢を見れたので思う存分空を泳いだ。 珍しく湿度の低い、晴れた午後の空だったのでスピードを出さず、ただゆ…

エーテル・ドリンキング

まず、前提条件として僕は今恐らく多分死んでいる。僕の少し前の記憶が正しければ、戦場で追い詰められて死んだはずなのだ。死因がよく思い出せないので、ありがたいことに即死だったのだろう。どんな戦争に参加したのかも憶えていないのだが(それはまあご…

オユ

「私は男色じゃないから」と誰に言うでもなく、しかし正面の私を真っ直ぐ見据えながら海さんが言ったので、私はこれは夢だと認識した。飲み屋の薄暗い照明効果をもろともせず、完璧な色調補正をかけられたファッション写真のように海さんの髪と眉は美しく黒…

Octopus Daughter

のことを考えるたびに小梅さんの姿を思い浮かべるので、多分この世でOctopus Daughterを描くのが一番うまい人間は大越孝太郎だと思う。

皆既日食きれい

麻雀とトランプ

Nと一緒に海さんの家にお邪魔した。正面に正座した海さんは厳しい眼差しで私に「麻雀できますか?」と聞いた。同じく正座した私が「できません」と答えると、海さんは厳しい眼差しのまま「5回で役全て覚えて下さい」と言った。私は慌てて「8回なら」と答える…

if you dare

憂鬱なほうに頭が悪くなるのも、逆なほうに頭が悪くなるのも、ひどくなると全く何もできなくなるのは同じで、とにかく疲れやすく一度眠りに落ちるとかなりの時間寝続けてしまうようになる。 夢は見たことのない長編ものを見るようになる。大抵知らない人を2…

悪人らしい悪人

それで彼女はどんな人だったんですか、その、見た目とか。私はグリーンカレーを取り分ける彼の手つきを見ながら遠慮がちに聞いた。かわいいとか、あまり可愛くないとか。あるでしょう、そういうの。彼は私に小皿を差し出して、少し考えてから言った。かわい…

最近夢の中での感覚が現実と見間違うほど鮮やかであること

横になっている時キスされそうになったので顔を背け更に手を口元に当てされないように抵抗するけど結局指を割ってされる夢。鮮やかに。2回。

人が沢山死ぬ夢を見た朝は清々しい

最近知らない夢ばかり見る。最近明晰夢が見れない。気がついたら8年くらい同じことをしている。最近うんざりされてる。 実家のクロゼットの奥に小さなダンボール2箱分、たっぷり保管しておいたものを全て捨てた。探していたものだけ持って帰ってきて、別にわ…

「私ゴッホの実物見たときほんとしょうもないと思ったんですよぉ」

「泥酔?」「ちがう酩酊」「めいてい?」「め・い・て・い!」と言っても酩酊が通じなかった酩酊している私は混んだ電車の中で読みかけの文庫を取り出すが図書館から借りた無線綴じの新潮文庫は最初の3枚の背が外れていていつか落ちるのではないかとヒヤヒヤ…

Garden Party

とうとう実行に移してしまった。適当な市民団体をでっちあげ、そこの名刺を印刷した私は人の良さそうな格好(この場合適度に小母さん臭い格好のことを言う)をして青いビニールシートに包まれた河川敷のロケットに向かう。

よたよたと短い駅の階段を下りる跛の若い女の膝裏にローキックを入れる。女は前のめりの姿勢で5段下の床に顔から着地する。私は何事もなかったようにそのまま階段を下り、階段に投げ出された脛に体重をかけ折ろうとするがうまく折れない。

丁度レインボーブリッジから見える東京湾が綺麗だったので、私は空港に向かう車の中で毎日東京湾に浮かぶ水死体の話をした。 「君を好きになることでバランスをとっているんだよ」という言葉の意味をずっと考えているけど真意が見えない。 謀られたと思った…

意のあるところをお汲み取り下さい

神経細胞がよく覚えた感覚は、夢の中で更に感度を増して再現される決まりらしい。痛覚は今のところこれに当てはまらない。なんとなくルールがあるのはうっすら察しているが、恥ずかしいので明言は避けたい。 低く長く飛ぶのは難しい。

public enemy of the kingdom

明け方目が覚めてベッドの中でメールを見ながら完璧な対応だ、と思った。長いメールが一通に、週末の来訪を予告する短いメール。違和感を感じる間もなく、また夢に引きずり込まれる。もちろん引きずり込まれる前も夢だ。そのまた前も、そのまた前も、引きず…

冷蔵庫に貼ってあった写真のあの子より可愛くない

なんて言ったらいいのかわからないけど、5日前くらいの朝に、いきなり軽蔑に値すると思って、しばらく笑ってから、とても悲しくなった。 深く深く沈むベッドの中で、自分のいつも使う、4桁の暗証番号をひっくり返したら、とんでもない数字になることに気付い…

父と母の結婚は、私にとって奇跡としか言いようの無い出来事だった。 父は気に入らないことがあるとすぐ母に暴力を振るい、母はその度に泣いたり抵抗したり鬱々としたりしていたが、それでも彼らが自由恋愛の末にそれなりに愛を育み結婚し、子供をもうけたと…

水仕事をしていたら昨日切った指先の傷口が開いた。水を吸って膨らんだ皮膚は分厚く、ぱくぱくと口を開けると痺れるような痛みが走った。 お風呂に入る前にもう一度絆創膏を貼ろうと思いながら、忘れていた。 指先の傷口は髪をよく食べる。長い髪からするす…

ハルの話

とうとうハルが来てしまった。一年に一度訪れるハルは、温厚な老婆のような名前に似合わず酒やけしたようなおっさんの声をしている。毎年生暖かく、強い風が吹いた夜に初めて姿を表して、そのまましばらく一ヶ月くらい私の右耳後ろあたりに居座る。 ハルに実…

仕事でまた金沢に来ている。壁も天井も白いすりガラスでできた、陽の光が差し込むだだっ広い体育館のようなところで、金沢美大の卒展を見ている。私は紺色のトレンチコートを着ていて、黒いパンプスを鳴らしながら、仕事が溜まっていることに焦っている。な…

hatenaとtwitterだけで知っているお姉さんのご自宅に忍びこむ。実父がこの家にいるはずなのだ。気付かれないようにしなくてはならない。 1度目は玄関から忍びこむ。鍵は開いてる。2階に人の気配がする。 2度目はベランダから忍びこむ。1階から登り棒を登るよ…

バッチフラワー・レメディ

バッチフラワー・レメディという代替医療がある。38種類の花の花びらの上の朝露から作られる液体を使ったその療法は、簡単に言うとアロマオイルのようなものに近い、ものだと思う。あるいはアロマオイルよりどうにもならないものかもしれない。 ある医師がバ…

私はいつだってもう何も考えたくないのだった。 消しゴムで消すように全てを消したい。うっすらと見える跡が残っているくらいがいい。探したい人は鉛筆で擦ればいい。輪郭がわかるかわからないかくらいがいい。

ピギー・スニードを救う話

多分彼女には気付かれているのだろうと思う。だから「会ったら毎回言われる?」と聞かれるのだ。一瞬何のことかわからないような、微かな笑いを含んだ問いは、女特有のもので、私は恥ずかしさについ俯きそうになる。何気なさを装って事実を少しねじ曲げた嘘…

共進化のランナウェイ

ダーウィンは1862年に彗星ランの長いながい蜜腺を見て、「しかしこの蘭から蜜を吸う昆虫がいるに違いない」と予言した。そして予言後41年の月日が経ってからその蜜腺の底まで届く長いながい口吻をもつスズメガが発見された。 このキサントパンスズメガと彗星…

深夜プラス1

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