日記

門松になるまえの、弱門松のもの

年明けの雑煮のために一束298円よりは気の利いた値段の小松菜と、2個248円よりは気の利いた値段のゆずを探して夏に引っ越した新居のまわりの食料品店をはしごしていた時、通りかかった、明かりの消えたオフィスビルの、玄関に、竹の先端部が真っ平の門松が2…

西日が差し込む15時の科博のラウンジ

「ここ」 「ここ?」 「ここ、シロナガスクジラ撮る人達が一番良く見える席」 「みんな撮るね」 「地方から修学旅行とか社会科見学で来た中学生はみんな撮る」 「あの子ダイオウイカの帽子かぶってる」 「夏休み中は塗り替えしてて、足場で見えなかった」 「…

ねこかわいい

少し涼しくなってきて、猫が私のベッドで一緒に眠るようになった。 彼女は肌触りのよい古いタオルケットが好きで、上に乗ってはよくふみふみちゅーちゅーする。肌触りのよい古いタオルケットは義父のおさがりで、糸がそこらじゅうほつれているのだけど本当に…

句読点の多い文章にほっとした6年後、思いがけず低い声にちょっとびっくりします。

コンディメント

嫌いなオレンジ色の電車を新宿駅で降りるといつもの通りホームに人が溢れており、私は人にぶつからないよう、前の老婦人にならって 慎重に足を進める。 老婦人は身長150cmくらいだろうか、私の目の前で多分ちょうど染めたばかりなのだろう、アメリカのホーム…

「明日から、人生最悪のぎっくり腰」

「神父はカウンセラーか」

神父に「あなたはカウンセラーか」と聞くと神父は裏声で「ラベンダーラベンダー」と答えた

戸籍名が変わった

ラマーズ法っぽい

本当はしてはいけない、しかしおそらく誰にも気付かれないであろう代替手段を用意し核心を避けてみたら思いの外楽になって驚いた。ラマーズ法っぽいな、と思った。あれは本当に痛みを逃せるので侮れない。

駅までの帰路の途中で民家のドアにへばりつく守宮を見つけた。まさに今視線の先に止まっている小さい蛾を食べようとしているそれの、足の指一本いっぽんを慎重にドアからはがしては新しいところに置きじりじりと蛾に迫っていくその仕草は信じられないほどな…

シバシバくん

数日前に2ちゃんねるの原発関係のスレッドで見た「シバシバくん」という単語にやられた。恐らく「数々(しばしば)」ではなく「芝芝」と発音するのであろう東芝の技術者を指したその隠語はやけに素敵なものに思えた。 私も身の回りで「シバシバくん」を作り…

マスクの中にぼろぼろと落ちていく涙は思いの外熱い。 毎日仕事を終えてから急いで地下鉄を乗継ぎ四十分かけて見舞いに行き、病棟の面会時間が終わるまでの二十分間を一緒に過ごし、バスを乗り継いで一時間かけて家に帰る。二十分は思いの外長い。 不安なん…

寒い冬なのに、山に一晩肝試しをしに行くと言う。私は付き添うだけで、車で待っているからね。 車のまばらな山頂近くの駐車場で、会いたくない人の車を見つけ、がっかりするも安全かなと思い直す。(誰のことでなんのことだか覚えていない) 寒さに負けて、…

ブレスト

死のスケジュールファーストシーズンを抜けて勝ち取った半休で取った久しぶりのまともな睡眠で、久しぶりのまともな、本当に久しぶりのまともな明晰夢を見れたので思う存分空を泳いだ。 珍しく湿度の低い、晴れた午後の空だったのでスピードを出さず、ただゆ…

Octopus Daughter

のことを考えるたびに小梅さんの姿を思い浮かべるので、多分この世でOctopus Daughterを描くのが一番うまい人間は大越孝太郎だと思う。

if you dare

憂鬱なほうに頭が悪くなるのも、逆なほうに頭が悪くなるのも、ひどくなると全く何もできなくなるのは同じで、とにかく疲れやすく一度眠りに落ちるとかなりの時間寝続けてしまうようになる。 夢は見たことのない長編ものを見るようになる。大抵知らない人を2…

悪人らしい悪人

それで彼女はどんな人だったんですか、その、見た目とか。私はグリーンカレーを取り分ける彼の手つきを見ながら遠慮がちに聞いた。かわいいとか、あまり可愛くないとか。あるでしょう、そういうの。彼は私に小皿を差し出して、少し考えてから言った。かわい…

人が沢山死ぬ夢を見た朝は清々しい

最近知らない夢ばかり見る。最近明晰夢が見れない。気がついたら8年くらい同じことをしている。最近うんざりされてる。 実家のクロゼットの奥に小さなダンボール2箱分、たっぷり保管しておいたものを全て捨てた。探していたものだけ持って帰ってきて、別にわ…

「私ゴッホの実物見たときほんとしょうもないと思ったんですよぉ」

「泥酔?」「ちがう酩酊」「めいてい?」「め・い・て・い!」と言っても酩酊が通じなかった酩酊している私は混んだ電車の中で読みかけの文庫を取り出すが図書館から借りた無線綴じの新潮文庫は最初の3枚の背が外れていていつか落ちるのではないかとヒヤヒヤ…

丁度レインボーブリッジから見える東京湾が綺麗だったので、私は空港に向かう車の中で毎日東京湾に浮かぶ水死体の話をした。 「君を好きになることでバランスをとっているんだよ」という言葉の意味をずっと考えているけど真意が見えない。 謀られたと思った…

意のあるところをお汲み取り下さい

神経細胞がよく覚えた感覚は、夢の中で更に感度を増して再現される決まりらしい。痛覚は今のところこれに当てはまらない。なんとなくルールがあるのはうっすら察しているが、恥ずかしいので明言は避けたい。 低く長く飛ぶのは難しい。

冷蔵庫に貼ってあった写真のあの子より可愛くない

なんて言ったらいいのかわからないけど、5日前くらいの朝に、いきなり軽蔑に値すると思って、しばらく笑ってから、とても悲しくなった。 深く深く沈むベッドの中で、自分のいつも使う、4桁の暗証番号をひっくり返したら、とんでもない数字になることに気付い…

父と母の結婚は、私にとって奇跡としか言いようの無い出来事だった。 父は気に入らないことがあるとすぐ母に暴力を振るい、母はその度に泣いたり抵抗したり鬱々としたりしていたが、それでも彼らが自由恋愛の末にそれなりに愛を育み結婚し、子供をもうけたと…

水仕事をしていたら昨日切った指先の傷口が開いた。水を吸って膨らんだ皮膚は分厚く、ぱくぱくと口を開けると痺れるような痛みが走った。 お風呂に入る前にもう一度絆創膏を貼ろうと思いながら、忘れていた。 指先の傷口は髪をよく食べる。長い髪からするす…

ハルの話

とうとうハルが来てしまった。一年に一度訪れるハルは、温厚な老婆のような名前に似合わず酒やけしたようなおっさんの声をしている。毎年生暖かく、強い風が吹いた夜に初めて姿を表して、そのまましばらく一ヶ月くらい私の右耳後ろあたりに居座る。 ハルに実…

バッチフラワー・レメディ

バッチフラワー・レメディという代替医療がある。38種類の花の花びらの上の朝露から作られる液体を使ったその療法は、簡単に言うとアロマオイルのようなものに近い、ものだと思う。あるいはアロマオイルよりどうにもならないものかもしれない。 ある医師がバ…

私はいつだってもう何も考えたくないのだった。 消しゴムで消すように全てを消したい。うっすらと見える跡が残っているくらいがいい。探したい人は鉛筆で擦ればいい。輪郭がわかるかわからないかくらいがいい。

ピギー・スニードを救う話

多分彼女には気付かれているのだろうと思う。だから「会ったら毎回言われる?」と聞かれるのだ。一瞬何のことかわからないような、微かな笑いを含んだ問いは、女特有のもので、私は恥ずかしさについ俯きそうになる。何気なさを装って事実を少しねじ曲げた嘘…

共進化のランナウェイ

ダーウィンは1862年に彗星ランの長いながい蜜腺を見て、「しかしこの蘭から蜜を吸う昆虫がいるに違いない」と予言した。そして予言後41年の月日が経ってからその蜜腺の底まで届く長いながい口吻をもつスズメガが発見された。 このキサントパンスズメガと彗星…

深夜プラス1

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